アニメモノたちの夜 ~星野真先生と行くアニメ裏側探訪~ その3:星野真(原作)✕竹達彩奈(OP「明日のカタチ」アーティスト)
『ノケモノたちの夜』原作者の星野真先生と一緒にアニメ制作の裏側を探るインタビュー企画。
第3弾は、OP曲を担当することが発表された竹達彩奈さん! OP曲「明日のカタチ」への思いや制作秘話だけでなく、ウィステリアという少女の芯にも触れていきます。
(※少々ネタバレを含みます)
主役が歌うOP曲! 子供の頃の憧れが現実に!
―先日、OP曲を竹達さんに担当していただくことが発表されました。竹達さんにはどのタイミングでお話があったのでしょうか?
竹達:最初にオーディションのお話をいただいて。その後に「OPはどうですか?」というお話をいただきましたが、ほぼ同時進行のような感じでした。
―星野先生は、どの時点で竹達さんがOP曲を担当することを聞いたのでしょう?
星野:じつは、キャスティングが決定するまでは何も。
竹達:ええ~?!
星野:担当編集さんからキャストが決まりましたと連絡を受けて「知った名前の方ばかりだ。本当かな?」と驚いていたら「竹達さんはOPも歌ってくださいます」と。それが凄く嬉しくて、その日はずっと竹達さんのYouTubeチャンネルを流して「ああ、この方にやっていただけるんだ」って(笑)。
竹達:そんな。嬉しいです。
―同時に連絡が入ったんですね。
星野:そうです。私は小中学生の頃にようやくアニメのキャスト欄というのを見るようになって、だんだん「あ、このキャラとこのキャラは同じ人が声をやっているんだ」なんて事がわかってきたんです。と同時に、OPを主人公役の声優さんが歌っている作品があると気づいた時、子供心に凄く嬉しかったんです。だから、キャラクター役の人がOPまで歌ってくれる、そんな凄く遠い憧れみたいなものだったことがまさか降って湧くなんて。それが本当に嬉しかったんです。
竹達:そんなふうに思っていただけていたんですね。嬉しいです。
あなたの曲になって欲しい「明日のカタチ」
―OP曲「明日のカタチ」はどのように作られたのでしょうか?
竹達:曲を作っていただくことになった時、作品の世界観を大事にしたいですというお話をさせていただきました。また、ウィステリアだったりマルバスだったり……ノケモノの世界で生きていて、ちょっと孤独感というか、光の下では歩けない感じというか。お陽様よりは夜の感じがいいなとか。本当にふんわりですけどお伝えさせていただきました。
―竹達さんからもどんな楽曲がいいかお話をしているんですね。
竹達:はい。作詞作曲をしてくださった毛蟹(※1)さんも原作を読み込んで下さって、作品の繊細さだったり、孤独感、それだけじゃないバトルの格好良さなどが楽曲には細かく入っていて、私から「もうちょっとこういうアレンジにして欲しいです」「もうちょっとこういう表現をして欲しいです」っていうことは何もなく、本当に素晴らしいですと。「ハロー、ハロー」で始まるところから感動してしまって。凄くキャッチーですよね。
―星野先生は最初に聴かれた時、どんな印象でしたか?
星野:凄く耳に残る良い曲だなと思いました。明るいテンポなのに、作品世界のイメージでもある夜を感じさせる部分もあって。それに、歌詞が素晴らしいと仰っていましたがまさにその通りですよね。「鍵」などの作品のテーマに沿ったワードも歌詞に入れていただいていますが、特に大好きなのは、2番になってからの(※フルコーラスの解禁前なので伏せさせていただきました)の部分で、目頭が熱くなりました(笑)。
竹達:ああ、そこ。そうなんですよね。
星野:本当に良い意味で「The Anime」といえるOP曲で。歌声も素晴らしいし。貰ったその日はずっとリピートして、そのまま寝ました(笑)。
竹達:ええ~~~(笑)。凄く嬉しい!
―歌われる時に何かポイントとした部分はありますか?
竹達:自分が主人公の一人としてやらせていただいている分、思いを強く入れがちになってしまうんです。でも、思いや感情を入れすぎると今度はキャラクターソングっぽくなってしまいます。それは竹達彩奈が歌っていることではなくなってしまうので、ある程度俯瞰で見るようにしました。
星野:私もそれは感じました。OP曲やED曲を作っていただけるなら〈作品のテーマ曲〉としてだけでなく、同時に聴いている人に〈自分の曲〉だと思っていただけるといいなと思っていたので、この曲を聴いてウィステリアの気持ちでもありつつ、でもこれを聴いているあなたの曲でもあるという感じがしたのが本当に良いなと思ったんです。たくさんの人に通じる歌詞になっているところが凄くいいですよね。
竹達:それは嬉しいです。楽曲を注文した時に「誰かしら孤独というものを心の中に抱えているから、その孤独感に寄り添ってもらえるような曲や歌詞がいいです」という話をしていたんです。なので、その気持ちを先生に汲み取っていただけて凄く感動しました。嬉しい。
星野:極端なことを言うと作品の曲になっていなくてもいいと思っていたので、まさにベストな感じです。本当に良い曲を作っていただきました。
竹達:先程は俯瞰といいましたけど、歌っていた時はなんていうかストーリーテラーみたいな気持ちっていうんですかね。物語のこともキャラクターのことも全部知っているし、ちょっと感情も入るんだけど、導く人というか……。「世にも奇妙な物語」でいうとタモリさんみたいな(笑)。そんな感じのポジションで歌えたらいいのかなと思いながら歌わせてもらいました。
―この時点ではまだOP映像は完成していませんが、星野先生から簡単にどんな映像になるかご紹介いただけますか。
星野:原作を知らない人が第1弾のティザービジュアルを見ると「ああ、人外と少女の出会いものかな?」くらいのイメージかもしれません。ところが、このOPを観ていただくと、他のいろんなバディも、ごつい騎士も出てくる(笑)。良い意味で最初のイメージとは違うぞというのを感じてもらえると思います。
(ここで、竹達さんにも仮の映像に曲を付けた仮編集のムービーを観ていただきました)
竹達:初めて観ました。へぇ~。凄い! 胸熱ですね。仕上がるのが楽しみです。
星野:しっとりした作品かなと思ったら熱いものもあるという。いい引っ掛かりになってくれそうです。
竹達:あ、これ。Bメロにある(※OP映像の解禁前なので伏せさせていただきました)のところ、こういう表現っておしゃれというか格好良いですよね。……じつは私もこの曲のMV(※2)で似たようなことをしているんです。
星野:MVを作っているんですね
竹達:はい。MVを撮影させていただいたんですけど、この部分の表現がちょっと似ていて(笑)。打ち合わせとかしていないのに、こういうちょっと通ずる部分があるのは凄く嬉しいですね。
星野:一緒に観て欲しいですね。
竹達:そうですね。実写のMVとアニメのOPとどちらも楽しんでいただきたいです。
ウィステリアの本質は食事シーンにある?
―せっかくなので、ウィステリアとして竹達さんの声を聞かれたお話も伺えますか?
竹達:なんと怖い質問を(笑)。
星野:第1話のアフレコに伺った時の話なんですが、悪い神父にいじめられているシーンで泣きながらも一生懸命にご飯を食べるウィステリアのお芝居が本当に素晴らしくて。
竹達:え~。
星野:私は食べ方や食べ物の扱いを大事にして描こうと思っていて。このシーンでは神父は食べ物を粗末に扱い投げる悪人、泣きながらも一生懸命に食べるウィステリアは芯の強い善人タイプ。泣きながら、悔しくて、でも……という演技から芯の強さも感じられて「この人で良かった」と思いました(笑)。他の食事シーンでは嬉しそうに食べてくれたり。そこもしみじみ良かったと思いました。
竹達:それは先生の力(原作漫画)があってこそなので。
星野:いえいえ。
竹達:漫画を読んでいるとウィステリアが本当に美味しそうにモグモグ食べているんです。小さい口で大きいものを口に含んで(笑)。それが本当に可愛くて。その可愛らしさをアニメでどう表現できるかなというのは、私も毎回めちゃめちゃ気合を入れています(笑)。
星野:それは嬉しいです(笑)。
竹達:食べるって人間の3大欲求の1つじゃないですか。なのでやっぱり大事なシーンだと思うんです。特にウィステリアは境遇が恵まれているとはいえないので、普通の生活が出来ることに対してのありがたみ、どれだけ食べ物が大切かということを分かっていると思うので「美味しいよね」「素晴らしいよね」というのを大事にしたいなと思って演じています。
―ウィステリアは目が見えないキャラクターですが、演じる難しさはありますか?
竹達:目が見えないキャラクターを演じるというのは初めてでした。なので、目が見えない世界ってどんなものなのだろうと、実際に自分で目を瞑って生活をしてみたり、街を歩いてみたりしたんですけど、本当に怖くて。いろんなところにぶつかるし歩けないし色々踏むし、小さい段差でも転びそうになったりとか、かなり危ないんですよね。なので、普段当たり前のことのように出来ていたことがまったく出来なくなる怖さというのを、ちょっとの時間ですけど感じ「これをウィステリアはずっと抱えて生きているんだ、凄いな」と思ったのと同時に、彼女の精神的な強さだったり、どれだけマルバスが支えになっているのかというのを凄く感じながらキャラクターを作りました。
―目がみえないキャラクターを主役にするのは、漫画としても難しいんでしょうか?
星野:最初は編集さんからも「描き方によってはセンシティブな部分があります」という懸念がありました。なので、私もかなり本を読んだり、目が見えない方や盲学校の動画などをたくさん拝見しました。ただそれをそのまま描いてしまうと、エンタメとしての少年漫画ではなく、ドキュメンタリーになってしまう…という考えもあって、頭の中に入れてはいるけど、あまり出さないようにしました。そのバランスは難しかったですね。ウィステリアも見えなくなったことに対してマイナスになるようなことは絶対言わないように、いや言わないだろうと。自分で選んだ事だし、マルバスがいるから心強い。ただそこも依存にはならないように。そのあたりは絶対にぶれないように描いています。バランスは模索しましたが、それを含めてウィステリアを強い人間として受け止めていただいたんだと思います。
竹達:マルバスへの信頼は凄いですよね。大事な目を失ってでも一緒に居たいと思える相手ってなかなか……。家族でも難しくないですか? そう思える相手に出会えるのが凄いなって思うし、ちょっと羨ましくもあったりして。そんなふうに思えるって素敵なことだなと思いました。
ウィステリアとマルバスの奇跡的な出会いを
この作品との奇跡的な出会いを楽しんでください
―最後になりますが、放送を楽しみにしているみなさんにメッセージをお願いします。
星野:この作品は、互いに孤独だったウィステリアとマルバスがたまたま出会った、出会いの奇跡のような部分を描いています。たまたまチャンネルを変えてこの作品を観ようと思ってくれたみなさんとこの作品も奇跡的な出会いだと思います。奇跡的に巡り合った作品との出会いを最後まで楽しんでください。
竹達:私としてはウィステリアを演じさせていただきつつOPも歌わせていただいて、本当に作品の顔といっても過言ではないくらい出させていただいているので、役者としてもOPを歌わせていただいているアーティストとしても、ちゃんとこの作品の魅力が伝わるように表現できたらいいなと思いながら日々頑張っています。この作品には、魅力的なキャラクターたちがたくさん登場します。また、大きく広く見た時にウィステリアとマルバスの成長というのをみなさんに応援していただける作品じゃないかと思います。是非楽しみにしていただけたら嬉しいです。
星野:あの。もうひとつ、いいですか?
―もちろんです。
星野:竹達さんのお芝居でどうしてもみなさんに聴いて欲しいところがあります。ウィステリアは主人公として物語が進むにつれどんどんキリっとしていきます。善なる者としてズバッと正論を言うシーンも出てきます。でも、人間って相手が正義過ぎると逆に「うっ」って引いてしまうことがあるじゃないですか。作品を描いていた時、そういう部分でウィステリアが嫌われたらどうしようかと心配でした。それが竹達さんの声を聴いたら変に嫌味に感じることもなく、すっと通るというか、まさにジャストな感じでした。啖呵を切る……じゃないですけど(笑)ズバッと正論を言う竹達さんの演技を一緒に楽しんでください。
竹達:ありがとうございます。その嫌味のない正論のシーンなんですけど、そこってじつは私がオーディションで作っていたウィステリアに一番近いキャラクター像だったんです。時々出てくるそんなシーンが彼女の本質的な部分なのかなと感じながら演じさせていただいたので、その部分をお話ししてただいて本当に嬉しいです。先生はほとんど毎回アフレコを見に来て下さっていたので、一緒に作品を作れた気がして毎回楽しいアフレコでした。
※1 毛蟹:アニメの主題歌などにも楽曲を提供しているミュージシャン。主な楽曲提供作品に『Fate/Grand Order』『ソードアート・オンライン』『はたらく細胞』『マギアレコード魔法少女☆マギカ外伝』『シャドーハウス』『バック・アロウ』がある
※2 MV:竹達彩奈さんの12thシングル「明日のカタチ」初回限定盤に収録予定。発売は2023年3月1日