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アニメモノたちの夜 ~星野真先生と行くアニメ裏側探訪~ その4:星野真(原作)✕Hakubi(片桐:ED曲「Rewrite」アーティスト)

『ノケモノたちの夜』原作者の星野真先生と一緒にアニメ制作の裏側を探るインタビュー企画。第4弾は、ED曲を担当するHakubiでボーカル・ギターを担当する片桐さん! ED曲「Rewrite」の制作裏話だけでなく、原作漫画とHakubiが作る楽曲の世界感との共通点が明らかに!(※少々ネタバレを含みます)

すぐにイメージが湧いてきた「Rewrite」
『ノケモノたちの夜』とHakubiの共通点

アニメ作品へのシリーズを通した楽曲提供は初めてだと伺いました。

片桐:以前アニメに関わらせていただいた時は、Webアニメで、その中でも1話のみのメインテーマでした(※1)。なので、今回シリーズを通して毎回EDとして使っていただけるのは、アニメや漫画が元々好きだった側としても凄く嬉しかったですし、それに、自分がアニメ本編の余韻を残したままEDを聴いていることがあったので、そういう楽曲に携わるということに凄く責任感を感じて、素敵な作品を更に引き立てられるようにとドキドキしながら作りました。

詞と曲はどちらが先に出来たのでしょうか?

片桐:歌詞を先に書いてそこにメロディを当てはめていく〈詞先〉と、先にオケ(メロディを含めた曲)があってそれに歌詞をのせていく〈曲先〉というパターンがあるんですが、私はギターを弾きながらそのまま言葉を口に出していく、その言葉にあった響きやメロディがその場で出てくるみたいなイメージです。この楽曲でも弾きながら頭の中にある言葉を口に出しながら、本当に日記みたいに書いていくように作っています。

作業はスムーズに進んだんでしょうか?

片桐:原作漫画を読み終わってからすぐに……。ちょうど全国16箇所くらいをまわるツアー中だったんですが、合間の時間を見つけてホテルの中とかでポロポロ弾きながら。本当はあまり音は出しちゃいけないんですけど(笑)。私は曲を作るのが本当に遅いんですけど、ツアー中に1番のサビまでを3パターン書き終えるくらいの作業を、もう最速スピードで(笑)。原作漫画を読んで本当に心を動かされましたし、早く書きたいと思いながら作りました。

最初に出来たフレーズは?

片桐:冒頭部分の「眠っても眠っても~終わらない話をしよう」という一節です。他の誰にも理解されなくてもたった一人に理解されればそれでいい。そんな絆が書きたいと思ったんです。言葉がどんどん出てくる感じでした。

原作漫画を読んだ時の感想も教えていただけますか?

片桐:楽曲が決まった時に出したコメントに「強くて優しい」という言葉を使わせていただいたんですけど、出てくるキャラクター全員に深みがあって、それぞれが……。酷いことをするキャラクターでもその根底には優しさがあったり、誰かを信じる誰かを信じたいという気持ちや意思とかがあって。ひとり残さず絶対にこれだけは譲れないという部分が感じられる作品ってホント凄いなと思って、みんなのことが大好きになりました。

星野:ありがとうございます。

片桐:全部のキャラクターに愛を持って裏の裏まで想像されて、絶対どのキャラクターも捨てないというのが凄いなと思いました。

星野:愛情はどのキャラクターにも平等にあります。伝わっていて凄く嬉しいです。けれど一方で、全員に「結構重いんじゃないか?」というくらいの思い入れを持っていることが、作者のフィルターが作品に乗り過ぎていやしないかと、自分ではちょっと心配していた部分もあったんです。描く時ってある程度のドライさも必要だなと思っていて、『ノケモノたちの夜』に関しては全8巻という結構短いシリーズということもあったので、かなり全員に濃厚に(作者のフィルターが)乗ってしまったという自覚はあります。ただその部分が伝わって愛していただき、さらに良かったと言って頂けるのは凄く嬉しいです。作品として正解がどうかはわからないですけど、キャラクターとの丁度良い距離感、読者さんからみてあまりウエットにもなってほしくないその距離感や見せ方の問題は今後も探っていきたいと思います。

片桐:これだけ素敵な作品を作られていてまだまだ探究心というか……。さらに、さらにというのが本当に素敵です。

星野:ありがとうございます(笑)。

片桐:もう、みんな大好きです(笑)。

片桐さんはアフレコ見学もされたそうですね。

片桐:じつは第3話のアフレコにお邪魔させていただいたんですが、感動だったんですよ(笑)。絵があって、声が入って。私、もう泣きそうになっていました。今も泣きそう(笑)。

それは楽曲が出来上がった後ですか?

片桐:ボーカル録りの直前くらいでしたね。少しだけ歌詞に修正を加えたいなと思っていた段階だったんですが、そこで感情的になって、そのまま歌入れに……。

アフレコ見学はプラスになりましたか?

片桐:はい。それはもう。キャラクターが動いているところも見えたので、それも(歌入れの気持ちに)繋がったのかなと思います。

星野先生にも伺います。楽曲を最初に聴いた時の印象は?

星野:楽曲はEDの仮映像と一緒にいただきました。マルバスとウィステリアが夜2人で話をしているシーンが最初にあって、そこに「眠っても眠っても」と片桐さんの声が入っていくのを聴いて、思いっきり泣きそうになってしまって。

片桐:ええ~。

星野:こんなにぴったりな絵と歌と……。お互いに相乗しあっているというか、これは泣いちゃうなと思ったんですよね。それくらいに……。なんだろう……。日本語の形容詞が足りないと思うんですけど(笑)。芯があるけど儚さがあるような。そんなトーンの優しい歌い出しで、アニメの内容も含めすっと入ってくる。こんなに良い曲がEDとして付くのかと染み染み……。これはイケる(笑)。アニメ本編の余韻を受けながらこの曲が流れ出したら、みんなギュッってなりますよ。最高でした(笑)。

片桐:アニメ本編を見た後で、さらにその余韻を引っぱっていただくというか。EDを聴きながら「ああ、良かった」と思っていただけるのが一番ですよね。

星野:そうですね。ED曲も含めて1つのエピソードだと思います。これはこの後の質問にも繋がるんですが、他のHakubiさんの曲も聴かせていただくと『ノケモノたちの夜』の世界観にあるものがHakubiさんの曲の世界観にもあって、両方重なるところがあったんです。

片桐:『ノケモノたちの夜』ではノケモノにされていたキャラクターや「自分はノケモノだ」というキャラクターがいましたけど、私もノケモノ感というか孤独感……。「寂しさ」や「誰にも必要とされていないんじゃないか」「誰も信じられないかもしれない、でも信じたい」という気持ちが自分の中に凄くあって、それをHakubiの楽曲に投影してきたので、本当にこの作品を読んだ時に自分に凄く当て嵌まっているというか、自分も凄く思うところがありました。Hakubiにぴったり、Hakubiに(楽曲を)任せていただいて、私に歌詞を書かせていただけて本当に良かったなと思います。

「Rewrite」に込められた一歩先の光
作者の気持ちが乗り移っていた?

曲タイトルについて伺えますか?

片桐:「Rewrite」というのは、もう一度書き直すということだけでなく、書き終えた後にも続いていくという気持ちも込めています。この楽曲の最初と最後に「終わらない話をしよう」というフレーズが入っていますが、最初は孤独感があって誰も近くにいなくて寂しい思いをしているところから、一番最後にはこれからも続いていく明日に向かって光を見出す、明日にも続いていく……。「終わらない話」というのは、自分がこれからも続いていくものに向かって歩き出していくということを考えていました。「Rewrite」といっても全部を書き直す、自分が真っさらに変わってしまうのではなく、どんどん更新されていく、前に進んでいく感じを込めて「Rewrite」。書き直すという意味のタイトルを付けさせていただきました。
すみません、自分が付けたタイトルなのにどれだけ(説明が)苦手なんですかね(笑)。タイトルは曲ができた後に決めるんですけど、「どうしよう、どうしよう、ノケモノたちの夜、このままでも良いな」と思いながら、でもみんながちょっと考えてもらえるようなタイトルをつけようと思って、「もう一度(書き直し)歩いていく」気持ちと、「もう一度光を見出していく」という気持ちを込めて、「write」と「light」のダブル・ミーニングみたいなことを考えてみました。

星野:曲は以前から受け取っていたんですが、じつはタイトルを知ったのが一昨日くらいで。この「Rewrite」というタイトルを見た時に、すごくピッタリだと思いました。

片桐:良かったです。

星野:書く方の「write」なのは分かったんですが、音だけで考えると光が射すような響きがあって。一度だけ書き直すのではなく、何度も書き直すことを繰り返しながらちょっとづつ先に進んでいくようなことなのかなと思って上手いなと。もうひとつは、私が一度描いた原稿を何度も描き直す癖があるので(笑)。そんな自分の作業も思い出して、まさかそういうところまで気持ちが乗り移ったりしていたり(笑)。ついドキッとしましたが、綺麗なタイトルがついたなと思いました。

片桐:乗り移っていたかもしれませんね(笑)。タイトルを決めるのはいつも難航しているので、そう言っていただけてめちゃくちゃ嬉しいです。

星野:なんとなく夜っぽい、闇とかそういうタイトルにも成りがちかなと思うところを、暗い部分ではなく光の方を付けるのが良いなと思いました。全体的に明るさが、差し込んでくる明るさのイメージがあって、凄く良いです。

片桐:めちゃめちゃ読み取っていただけて、嬉しいです(笑)。

星野先生はHakubiさんの他の楽曲も聴かれたそうですね。

星野:第3話のアフレコでご一緒させていただいた時にこれまでのCDをいただきました。聴かせていただいて「この世の中のセンターゾーンにいないんじゃないか」と感じている人たちの気持ちに凄く寄り添ってくれる歌だなと思ったんです。私だったら、ひとり静かに徹夜みたいな状態の中で聴いていたいなって。世の中の真ん中にいないというのは、その人の社会的背景とかは関係なくて、自己肯定感の低さではないけど、みんなどこかで「自分はみんながいうみんなの中に入っていないんじゃないか」という気持ちを抱く時ってあると思うんです。そういう時に向けた歌はもちろん色々あって「めちゃめちゃ元気だせよ」という歌もあるけど、何も言わないけど横にいてくれる、「とりあえず、話聞くよ」とまでは言わないまでも、寄り添ってくれる曲。そんなイメージでした。切ないけど言いたいことははっきりしている強い曲で……。「よくぞ、この人達にお願いできた」と(笑)。その後に、公式サイトやウィキペディアを見たら、コンセプトが「夜中、あなたに寄り添う音楽」だと書いてあって、ピッタリじゃん(笑)。こんなピッタリなことってあるんだ。曲を聴いて感じたことは間違ってなかったんだって。発している思いがはっきりしているので(みなさんからどんな反応があるか)期待も高まっちゃうなって(笑)。
特に冒頭の歌詞「眠っても眠っても」はガツンというタイプではなく染み入るような感じで、フレーズが残りやすいので頭の中でリフレインしています。そういうところもとにかく良かったです。

片桐:……こんなに嬉しい時間で良いんですか?(笑)。

心に残るセリフや歌詞
キラーワードを生み出すために

片桐:私は『ノケモノたちの夜』には好きなキャラクターがたくさんいて、それぞれのバックボーンをまとめて単行本にして欲しいくらいなんですけど、印象的なセリフも幾つかあって、マルバスの、大切なことは忘れてしまうけど「無駄なことなんてひとつもない」とか、シトリの「この人となら一生傍にいられる、そんなのただの怠慢だよ」とか。ダイアナが家が燃えちゃった後に言っていた「立ち止まってしまったら、悲しみに追いつかれてしまいそうで」とか。凄く印象的でグサッと刺さる言葉ってどんな時に思いついているんですか?

星野:変な話、良いセリフが書けた時って、自分でも「これ良いセリフだな」って思うんです(笑)。

片桐:ああ、はいはい(笑)。

星野:私も「なんだろう?」と思うんですけど、そういうセリフほどあまり練っていないことがあるんです。コイツは絶対こんなこと言うだろうなって感覚なのかもしれません。これは漫画作りでありがたいところなんですが、そういうセリフを出すと担当編集さんからも、すかさず「良いね」って返ってくるんです。それで間違っていなかったなと。
ただ『ノケモノたちの夜』では、少年漫画というラインには乗りつつ、やっぱり全員寂しさを持っていることは忘れないようにしています。良いパートナーに巡り合って幸せなように見えても、それは一生じゃないし、依存に見えてもいけない。そういう意味では「ひとりかもしれない」という寂しさはどのキャラクターも忘れちゃいけない。そういう部分がセリフに、どこか諦めのような諦めたくないようなニュアンスはキャラクター全員が持っているというのを前提にしている感じです。そうすると出てくるかな(笑)。
私は曲を作ったことはないですけど、歌詞を書く、言葉を紡ぐ場合はどういう感じで出していくんですか?

片桐:じつはこんな質問をさせていただいたのも、自分でも「それってどうやって出しているんだろう?」と思っていたんです。それで、この作品を読んでいて「もしかしたら通じるものがあるのかな」って。それがそんなに練っていないというのを聞いて、確かに私もそんなに練っていないからこそ出てくるものだったなと。私も練っていないときの方が良かったりするんですよね。

星野:たぶん真髄に近いところじゃないのかなと思います。偶然とかラッキーに頼っているばかりじゃ絶対出てこなくて、常に考えたりいろんなものを読んだりして磨く訓練をしてようやく、たまにポコンと出てくるみたいな(笑)。「明日の自分の発想にかけるか」みたいなことをやっていては出てこない気がしますね。

片桐:そこが聞きたかったので本当に良かったです。感情のストックというか。そういうものをすり減らすように言葉を出していくじゃないですか。それって限られていくというか、持っている手札ではないけど、ストックがなくなってしまうんじゃないかなって思うこともあって、そういうのはいろんな作品を見たりして吸収しているんですか?

星野:その「自分の中の手札の少なさ」は、作品(歌詞)書いていらっしゃる方だからこそ思う怖さだと思うんです。私も天才のようにボコボコと出るタイプではなくて、それまでにダメなものをいっぱい出していく感じですね。出して出して没のヤマみたいな(笑)。本当に出ないんだという中で新しく何かを入れて出すだけでは、それは誰かの文脈に乗ったものになってしまうので、仕様がないから自分のない手札をこれでもかと組み合わせて……。私の場合、良いものがポンッと出てこなかった場合はとにかく数を出していく感じです。色んなパターンを何回も出しては「これじゃない、これじゃない」と。数を出して、なんとか「これかな」と。

片桐:周りにいる私のスタッフは気付いているとは思いますが、私はゴミ箱と言われているフォルダーを作っていて、駄作と思ったのはそこに入れて入れて(笑)。私が5個ぐらい出して「どうですか?」「これも良いけど……」ぐらいな時は、時折その中から拾ってもらったり。

星野:ゴミ箱フォルダの方が(OKが出るものをまとめたフォルダより)パンパンになりますよね(笑)。

片桐:何も考えずにバッと書いたものの方が意外といけたりして、難しいですよね(笑)。ただ、そうやって悩んでいるからこそ分かる人の気持(に寄り添える言葉)ってあると思うんです。

星野:自分の中でフォーマットが出来て、言いたい事の芯になる部分がポンポン出せるようになると格好良いとは思うんですけど、出来ない(笑)。毎回奇跡が起きて欲しいと思っています(笑)。

片桐:私は曲と詞が一緒に、感情のままに歌ってそれが言葉になっているので、その感情を生み出す……生み出そうと思ったらそれは考えていることになってしまうのでたぶん違うんですよね。さっと吐き出せるようにはいつも全然なれないので。何と何をしたらそういうモードに成れるとか、そういう自分の中の組み立てが出来たら一番楽なんだろうなと思います。イチロー選手のルーティーンのように(笑)。

星野:ゾーンに入りたいですよね。

片桐:入りたいですね。

エピソード毎に違う余韻をEDと一緒に楽しんでください

アニメの放送に向けて期待していることはありますか?

片桐:観たいシーンはいっぱいあります(笑)。全部といっても良いくらいなんですけど、アフレコにお邪魔した第3話のエピソードは最高で……。さっきも言いましたね(笑)。これは感動の渦というか、原作漫画を読んだ時もずっと泣いていたんです。読んで分かっているから泣かないだろうと思っていたんですけど、声が入ってまた泣けちゃって。声優さんの力もまた凄いなと思いますし、大好きなキャラクターが動いていることにも感動しちゃって。なので、原作ファンのみなさんもこのシーンは大好きになってくださると思います。また、ルーサーとダンタリオンの、きっとみんなには認められないけどとても真っ直ぐで強い絆が凄く、大好きなキャラクターなので最後のシーンも楽しみにしています。

星野:嬉しいですね。ルーサーとダンタリオンは「ザ・漢」みたいなキャラクターなのに、片桐さんがピンときたというのが意外というか……。シトリとかの気持ちが分かってくれそうだなと思っていました(笑)。

片桐:シトリも大好きです(笑)。

最後になりますが。放送を楽しみにしているみなさんへメッセージをお願いします。

片桐:素敵な作品に関わらせていただき、EDを任せていただいて本当に嬉しく思っています。自分もこの作品が大好きなファンとして、スタッフのみなさんと一緒にこのアニメをさらに良いものにしていければと思っています。また、アニメ本編の余韻を残したまま聴いて「(作品を)良かった」と言ってもらえるような楽曲になったと思うので、この作品を大好きだと思っている私達が作った楽曲を、アニメと一緒に聴いてもらえると嬉しいです。

星野:まずはHakubiさんのファンのみなさんへ、同じ世界観を共有させていただいてありがとうございますという気持ちを伝えさせてください。また改めて、今回のアニメのお話をいただいて本当に沢山の方たちが同じ方向に向かってひとつのものを作っていく楽しさを感じています。アニメ本編だけでなく、EDも含めて関わった人全員の作品なので、最後まで余すことなく楽しんでください。とにかく、それぞれの話数でED曲を聴いている時の自分の気持を大切にして欲しいです。エピソードごとに観終わった時の余韻も違いますから、曲の受け止め方も違ってくると思います。また、この曲をライブで聴ける日も楽しみにしています。

片桐:私もみなさんの前で歌うのを楽しみにしています。

※1 アニメ『Artiswitch』第2話挿入歌「color」

◯TVアニメ『ノケモノたちの夜』エンディングテーマ「Rewrite」は2023年1月15日より配信開始
◯Hakubiの2nd Full Album「Eye」は2023年3月15日発売。TVアニメ『ノケモノたちの夜』エンディングテーマ「Rewrite」収録予定