アニメモノたちの夜 ~星野真先生と行くアニメ裏側探訪~ その5:星野真(原作)✕山本靖貴(監督)
『ノケモノたちの夜』原作者の星野真先生と一緒にアニメ制作の裏側を探るインタビュー企画。第5弾は、監督の山本靖貴さん。原作漫画を預かり、アニメーションとしてさらに磨き上げていく思いを伺いました。(※少々ネタバレを含みます)
見た目の年齢と毛並み感に苦労したキャラクターデザイン
―まずは、原作を読まれた時の印象を教えて下さい。
山本:先にお話が行っていた脚本の山下(憲一)さんからの紹介で、監督をお願いしたいというお話を貰いました。ただ、自分はいつも原作を読んでからじゃないと仕事を受けるかどうかは答えられないということにしているので、まず1回原作を読ましてもらって……。ちょうど他にもタイトルが来ていたので、ちょっと読み比べるみたいな形になっちゃったんですけど、これは『ノケモノたちの夜』の方が面白いなと。自分の好きなタイプの作品でもあったので、監督をやらせてもらいますとお返事をしました。
―好きなタイプというのは?
山本:少年漫画なので、作品的にあんまりひねくれていないというか、スタイル的には王道な展開だし幅広い層に見てもらえるというところが1つ。あとは、やっぱりキャラクターに魅力がある作品じゃないと自分も入り込んだり感情移入できないので、そこはすぐ好きになれるキャラクターだなというのもあって、そこが2つ目のポイントですね。
―監督になって、最初に手掛けたお仕事はなんでしょうか?
山本:どんな作品でも、自分は基本的にはまず「原作のテイストをどう活かすか」を大切にします。キャラクターのデザインに関しては、コミックスの巻数がたくさん出ている漫画だと、冒頭と後半とでキャラクターの雰囲気も違ったりしますよね。作者さんの絵柄の変化もありますし、キャラクターが成長して外見などの変化もあったり。それをアニメで細かく追うことは基本できないんです。デザインを1個作ったら、よっぽど時間の経過が、10年後とかじゃない限りはそんなに変えられません。だから、どこにデザインの的を絞るかみたいなのはやりますね。
―最初は連載初期の絵柄でデザインを進めていたと伺いました。
山本:基本的にこの作品は、ウィステリアとマルバスの2人の関係性が推しだと思うんです。第1巻では、人生にくたびれた渋い悪魔とまだ若々しい少女(笑)。そっちの印象で始めたんですけど、どちらかというとマルバスは、巻を重ねていくと逆に若返っているような(笑)。
星野:若い子とつきあっているから(笑)。
山本:どんどん若返っているみたいな印象だったので、アニメで若返っていくのはちょっとなっていうのと、だとしても最初から若い状態だと雰囲気(人生にくたびれた感)が出ない。私には最初のイメージが強かったんですけど、後半のマルバスは段々ウィステリアに感化されてちょっと人間らしさも出てきて可愛らしい一面も色々あったりするので……。そこのバランスですかね。完全にド頭に寄せちゃうわけでもなく、後半の要素もどれだけデザインに組み込めるか、みたいなところを探っていきました。
―他に難しかった部分はありますか?
山本:人間のキャラクターに関してはそんなに難しくはないんですが……。キャラクターの年齢が明確に記載されていなかったので、年齢感を先生に聞いてみたら思ったより若かったんです。キャラクターが徐々に成長していくストーリーなので、最初は若いというのをちゃんと表現しなきゃなと。
星野:作品であまり年齢は出していないんです。あまりはっきりさせちゃうのもどうかなっていうのと、(作品を作る上で)登場するキャラクターや事象の年表を作っているんですけど、全員の諸々を合わせるのがだんだんぐちゃぐちゃになってきて、面倒だな、難しいなってなった時に、1回だけ作中でダイアナは14歳前後くらいのことだけ出して、「あとはご想像に」みたいにしています。ただ、私の頭の中の裏設定はあります。
―ある程度は決めておかないと、ということですね。
星野:なので、それを監督さんたちへお伝えして。「ちょっと幼くします」と言われて出来た絵が、断然可愛かったんで「ぜひこれで」という感じです。
山本:ウィステリアは言葉遣いだったりとか、かなり苦労もしてるから他の子供よりもちょっと大人びてるというか。巻数が進んでいくと成長もしますから、もうかなりしっかりした大人な子っていう印象が強かったんです。
―悪魔たちについてはいかがでしょう?
山本:悪魔とはいえ獣ベースなので、アニメにした時になんかつるっと硬い感じじゃなく、ふさふさな毛並みの獣感みたいなものが出せるといいなというのはありましたが、それを絵で表現するって結構難しいんですよね。そこがどれだけ出来ているかみたいなところは放送を観ていただくしかありませんが、こちらとしてはちょっと大事にしたポイントになります。
星野:毛並み感とても良かったです。アップになるとツヤみたいなのも入ってるじゃないですか。手間が掛かることは自分も描いていてわかるので、これを動かしていただけるのは凄いな、大変だろうなっていうのは感じました。
如何にしてコンパクトにまとめるか。でも足したい。
―キャラクター以外で、工夫された部分は?
山本:原作のボリュームが相当あるので、どちらかというと「どうコンパクトにまとめるか」という部分があります。中でも第1話、第2話に関しては、むしろ要素としては足しています。山下さんが最初にあげてきたものは原作とほぼ同じでしたが、アニメを全13話観てもらうために、最初の1話でどれだけ感情移入してもらい「この作品観るぞ」というところまで持っていかなきゃいけない……と考えると、アニメならではの第1話にする必要があるなと思ったんです。それで、第1話はガラっと変わったというか、相当苦労してシナリオは7稿までいったのかな。要素としては第1稿のほぼ倍になりました。
星野:第1稿は見ていないので、倍になったというのは初耳です。担当編集さんを通して監督から「ここはこういうことですか?」「ここはこうしていいですか?」という質問は幾つもいただいていましたが、シナリオという形でいただいたのはたぶんもっと後ですね。7稿に近い段階だと思いますが、敵方の悪魔が強そうだったり、気持ち悪いオジサンがより気持ち悪くなっていたり、凄く面白かったです。
山本:こんな要素を入れたいという部分については「こういう方向でもいいですか?」というのお話というか、提案はさせていただいています。多分、どんな監督でも最初に気にする部分ですね。自分から「原作をさらに、100%をさらに120%、150%にしたいっていう気持ちがある」という部分をお伝えして、それに対して、星野先生から「そういうことでしたらお任せします」みたいなことを言っていただけたので、第1話、第2話に関してはちょっと変えてみようかって。
星野:私も「ダメです」とか「そこやめて」って言った記憶はないです。ですが、すぐにお返事をしているわけではなくて、変更される理由、意図を聞いて納得できたら「オッケーです」とお返ししている感じです。
―そういえば、星野先生と山本監督はどのタイミングでお会いしたんですか?
山本:最初は、顔合わせの食事の席を設けていただいた時ですね。
星野:その後、葦プロさんでやった本読み(シナリオ打ち合わせ)にも1度直接参加させていただきました。
山本:食事会のあと、本読みがあって、それからだいぶ経ってからアフレコですね。
星野:アフレコは何度もお邪魔させていただきました。
―最初にお会いした時は、どんなお話をされたんですか?
山本:「どんなことが好きなんですか?」みたいなを話して「ポケモンが大好き」とか……。
星野:そうそう(笑)。私からは「アニメだと『魔法騎士レイアース』が好きでした」という話をしたと思います。他には「仕事をするきっかけになった作品ってありますか?」「アニメ業界にはどうやって入るんですか?」みたいな質問もしましたね。
山本:そういうお互いの仕事をする前のお話とかも聞いたり。
星野:特に私にとっては「憧れのアニメ業界」みたいな感じがあるので。もちろん脚本家の山下さんもいらっしゃったので「脚本家ってどうやってなるんですか?」と。入口が全くわからないじゃないですか。
山本:お互いの信頼関係がまず出来ていないと、何やっても上手くいかなかったりしますから。まずはお互いを知ることからみたいな感じですね。こういう人なんだっていうのが見えてから、お互いにちょっと壁がなくなって(笑)。
アニメだからこその空間演出。
絵コンテで参加した3人のベテランとは?
―絵コンテ作業について伺えますか? 第1話は山本監督は担当されています。
山本:第1話のコンテを見てもらえれば、この作品のテイストはこうだよっていうのが分かる状態にしています。でも第1話はちょっと特殊で、ウィステリアは絶望の中にいる状況で、マルバスも人生に退屈してるみたいな部分もありますから、そんな2人の感情とその世界観の空気感っていうんですかね。画面作りに関しても光と影の演出だったりとか、そういうところに関しては特に注意してやらなければいけない話数でした。あとは、マルバスの凄さみたいな部分をどれだけ出せるのか、第1話でガンと印象づけたいというのがあったので、原作と違う表現の仕方という意味では、さらに強化したみたいなところはあります。先程先生が言っていた敵が強そうというのもその1つです。
―マルバスの戦いをどう描くのかも楽しみです。
山本:マルバスは炎の能力の使い手ですから、やっぱり炎の表現ですよね。第1話でも炎がガンガン出てきますし、そこはちょっと印象付けられたかなと思います。また、原作だと第1話にスノウはほとんど出てこないんですけど、やっぱり彼も重要なキャラクターなので「スノウってどういう人なの?」「どういう戦い方をするの?」というのも第1話で足しています。スノウは悪魔払いなんですが、原作ではそういう職業を踏まえた戦い方をなかなか見る機会がなかったので、それをやりたいなというのもありました。
―星野先生はシナリオだけでなく絵コンテもご覧になっているそうですね。
星野:やっぱり動きがあると(絵や構図で見られると)、全然自分の引き出しとは違う、動きが連続しているアニメならではポーズの映し方とかが凄く面白くて。「これ、漫画書く前に見せてもらいたかった」「これがあったら、漫画でもその通りに描いたのに」みたいな感じで、勉強になりつつ見せていただきました(笑)。
―先の対談でも伺いましたが、同じ物語なのにカメラワークが違うんですね。
星野:そうなんです。特に第1話の最初の方のシーンで、ウィステリアとマルバスが屋根裏部屋で一緒にいるところの映し方とか。自分でいうのはなんですが、漫画とは違う空間の広がりを感じるカメラワークで。「ああ、なるほどな」というのがいっぱいあって、見られてラッキーみたいな(笑)。あとは、絵コンテに監督がさらっと描いた絵柄が可愛いかったです(笑)。
―じつは、今作のスタッフ表を見せていただいたところ、絵コンテの欄にかつて葦プロ作品に参加されている方のお名前があり、少々そこについて伺えないでしょうか。
山本:マニアックですね(笑)
星野:昔の選手が帰ってきたみたいな(笑)
山本:ファンからしたらちょっと熱い展開なんでしょうね。
―そういう感じです(笑)
山本:私は別のスタジオで監督をした時、プロダクションリード(2019年2月、社名を「株式会社葦プロダクション」に再改称)さんにグロス(作画などを1話まるまる外注する形)でお願いしたことがあるんですが、「あ、これって葦プロさんだよね」というぐらいの認識で。残念ながらあまりお付き合いはしていないんです。
―すると、今回絵コンテをお願いした方も。
山本:みなさんとも、初めてのお仕事になります。
―では順番に、第7話の絵コンテを担当された松尾慎さんから。
山本:もちろん先輩として知っていました。監督や演出はもちろんですが、アニメーターとしても上手い方なので「そんな人が絵コンテを?」と。上がってくるのも早かったですし。1週間だったかな、それが信じられなかったです。もちろん、上がってきた絵コンテもクオリティが高くて、やっぱり凄い。しかもアクション回だったんですけど、そのアクションが格好良いんですよね。ただ、内容は大変なんです。これを映像化することが果たして今の現場でできるのか(笑)。
―松尾さんだからアクション回をお願いしたんでしょうか?
山本:そういうわけでもなかったんですけど。松尾さんの絵コンテをみて、原画はとあるアニメーターさんにお願いするしかないと思いました。元々はもうちょっと後の話数でお願いするつもりだったんですが、正直その人に担当していただかないと無理だなと。演出も私がやる話数だし。なのでその話数だけは他とはちょっと違います。原画は幾つかあがっていますが、もう素晴らしいですね。
―その次の第8話は殿勝秀樹さんですね。
山本:絵コンテと演出をお願いしました。大ベテランの方ですよね。今作では「今回が初めてです」みたいな新人の演出さんが多くて、そんな中最年長の大ベテラン。まだ現時点では映像として上がってきていませんが、ベテランなだけあってある程度「こっちでやっとくよ」みたいな感じでお任せできたりする安心感があります。
―次は、第10話の麻宮騎亜さんです。
山本:菊池通隆名義での活躍はあまり記憶に残っていないので、自分の中ではどちらかというと漫画家さんの印象が強く、こうやってアニメの仕事をやられているのは知らなかったぐらいです。今作では半パートの絵コンテをお願いしたんですけど、絵がバッチリ決まっているんですよね。元々アニメの仕事をやられていますし今も絵コンテの仕事をやられているので、格好良い絵作りに関してはやっぱり上手い方だなと思いました。
―星野先生にとって、麻宮さんはもちろん漫画家さんという認識ですよね。
星野:絵コンテをいただいた時は「凄く上手い方が描いてるな」と思ったくらいで、全然ピンと来ていませんでした。アフレコ台本が届いて、ページをめくって担当された方のお名前を見て初めて「麻宮先生じゃん!」「まさか本当に?」「私『遊撃宇宙戦艦ナデシコ』の漫画買ってたよ」「自分の好きな作家さんが自分のキャラクター描いてる! 嘘でしょ!」みたいな(笑)。
―漫画だったら、ある意味コラボというか、アンソロジー的な。
星野:そう、そう(笑)。私は絵を真似したこともあったくらいで。本当に全く想像もしてなかったから、もの凄く嬉しかったです。凄く迫力あるし、めちゃくちゃルーサーが格好良くて、これが世に出ないのはもったいない(笑)。
―この対談のタイミングでお見せできないのが残念ですね。
星野:内容がバトルシーンのところなので、ネタバレになりますからね。
欲張りな監督と、漫画へのフィードバック
―監督が考えている作品全体の方向性について伺えますか。
山本:基本的には、原作のテイストを変に変えたりする意図ではなく、より良い方向で純度を高めていくみたいな形で考えています。原作には楽しめるポイントがたくさんあります。前半はキャラクターが大人っぽい雰囲気を持っていたり、舞台がイギリスのロンドンで街並みの雰囲気があったり、悪魔のテイストもあるファンタジー感などなど。そういう原作の面白いポイントをとにかく取りこぼしたくないんです。ポイントを絞るというよりは、もう全て楽しんでもらいたい気持ちがあってやってますね。多分性格が欲張りなんです(笑)。ただ、原作が少年誌で掲載されていたこともあって、結構コミカルのテストが多いんですけど、そこらへんはちょっと減っちゃってるかもしれないです。でも、がっつりやるときは……。ちょっと崩し絵というか、マルバスとかの可愛い絵が大好きなので。そういうところはしっかりやっています。
―監督の欲張り感っていうのは先生も感じましたか?
星野:もちろんです。本当に「ここ、なくなっちゃったな」と感じたことは全然なくて、完成した映像も一部観させていただきましたが、本当に全て入れて、それが色んな要素があることで雑多になっているというのでは一切なく、まるでレインボーの綺麗な玉のように(笑)。本当にバラエティに富んだいい作品になっています。
山本:よく入りましたよね。私も最初入らないと思ってて。
星野:毎回、シナリオを貰う度に「これ、入るんですか?」「大丈夫ですか」って思っていました(笑)。
―山本監督は演出面だけでなく、今作ではシナリオ、そして音響監督も担当されていますね。
山本:アフレコ現場もそうですが、選曲(どのシーンにどの曲を流すか考える)作業が好きでじつは楽しかったりします。
―山本監督は、元々アニメーターなんですよね。
山本:じつは、イラストレーターとかそっちの方に行きたいなと思っていたんです。でも、その時好きだったイラストレーターさんが元アニメーターだという情報を見て「アニメーターになると画力がつくのかな?」と(笑)。それが業界に入ってみたら、知らない間に絵を描くより演出の方に興味が湧いてきて、そっちが楽しくなってきちゃって。今度は脚本とか音響監督とか、どんどん新しいことしたくなっちゃうっていう。結局は全部を自分でコントロールして作りたいのかなっていうのはあるんですけど、だったら漫画家になれよみたいな(笑)いやでも漫画家はやっぱハードル高いですよね。
星野:そうですかね?
山本:ゼロから生み出すっていうところを考えると……。原作物のアニメに関しては、食材をお借りして調理するみたいな立場なので。やっぱりその食材をゼロから作るっていう苦労は、また全然違いますから。やっぱり漫画家さんはいつも凄いなと思います。
星野:私は、漫画からアニメに変換していただくのは凄く贅沢なことだなと思っているんです。声がついたり動くという直接的な部分もそうですけど、漫画とは少し違った形で作品の可能性や、作品で描いてる世界を広げてくれるような感覚でしょうか。今回、プラスの科学反応みたいなものを間近で見せていただいて、ただただありがたい、贅沢な思いをしています。
―今回、アニメ側のお仕事を覗かれたことで、先程の山本監督ではないですけど「これもやってみたいな」という部分はありましたか?
星野:別の世界(仕事)ということではなく、漫画の中で活かしたいなとは思います。アニメで色んな方から見せていただいたノウハウとかを、また漫画に入れるぞと。漫画が超凄いとかではなく、今回アニメの現場に触れて、改めて自分が一番落ち着くところ、私の出力先は絶対漫画なんだと思っています。
好きな作品から見えてきた共通点
―せっかくなので、お2人が好きな作品とその影響について伺わせてください。
山本:映画は好きですね。もちろんアニメも好きですが、仕事にしてるとあまり純粋に楽しめなくなってくるんです。映画もあんまりマニアックには観ていないつもりですけど。マーベル映画とかアクション映画も観るし、韓国映画も結構好きですね。ただ、結構ハード目なのが多いかもしれません。見てて辛い、追い込まれて辛いみたいなのも結構好きだったり。でも、そういうものが自分で作る作品に影響があるかというと、自分のラインナップを見るとそういうのあまりないっていう(笑)。仕事でやると辛くなるんですよね。見るのは楽しいですけどね。
―オリジナルの企画でもそうなんでしょうか?
山本:オリジナルの場合は多少は出ますね。あまりにぬるいよりは「なんか過酷な感じにしたいよね」みたいな。
―落ち込ませるならちょっと激しめに?
山本:そうですね。だから、どちらかというと実写向きの方に寄ってきてる気はしますね。
―星野先生はどうですか?
星野:「この作品を観てこれを書きたい」と思ったみたいなことはあまりないんです。自分の癖としては、人死にが関わる作品の方が燃えやすいかな。私が歴史物が好きなのは、裏にうっすら戦いの文脈があるからなのかもしれないですね。小説だと宮城谷昌光さんとか。それこそ「三国志」もそうだし。1番好きな作品は司馬遼太郎さんの「坂の上の雲」なんですけど。好きが高じて、なぜか登場人物の子孫の方に会ったことがあるくらいに(笑)。
―でも、それが直接的に作品には?
星野:直でそこはやってないですね。「じゃあ、日本の明治時代を描こう」というのも、ちょっと違うんです。
―『ノケモノたちの夜』では、当時のリアルな事象が薄っすらと入っていますね。
星野:そうですね。裏に薄っすらとアフガン戦争(第一次)を入れたりはしています。
―そこは、さっきの監督の話にも繋がるのかなと思います。
山本:多分あると思うんです。ぬるい関係性じゃないんですよね。キャラクターたちが結構厳しい環境に置かれてる中だからこそ、この絆が生まれたんだろうなとか。そういうのが凄いしっかり描かれていて。
星野:そういうテイストって、元の本とか資料に当たらないで書くと絶対ふわっとするんです。ファンタジーなんだけど、作り込みがちょっと雑だなって感じてしまう。そういうふうに見られたくはないなとは思っています。
山本:確かに『ノケモノたちの夜』はちゃんと何年代で場所はロンドンと、ある程度時代が特定していますね。でも、そこは映像化する時によりハードルが上がるというか(笑)。
星野:そうそう。先程ウィステリアの年齢の話で少し誤魔化したいと言ったのは、あの当時は児童労働があまりにも当たり前だからなんです。10歳そこそこの子供でも、手や身体が小さくて工場の機械などの隙間に入りやすいからと、危ない現場に入れていたりとか。でも、私はそこを描きたいわけじゃないし、ウィステリアはもうちょっと上の歳で、家で農業をしていたという設定ですけど、当然のように外に働きに出ていてもおかしくないんです。だけど、あまり細かく描きすぎると自分の中の時代考証を云々する声も大きくなってくるし、何よりそれをメインに描きたいわけではない。だから「多少ぼかすか」みたいな。
山本:ファンタジー要素もあるのが救いですね。
星野:そういう感じですね。当時の感覚は読者さんも持っていないわけでして現代の人間にとっては、当時の感覚なんて完全には理解できないじゃないですか。そのまま歴史の本の通り描いてドキュメンタリーにしても、読者さんもついて来れないかもしれないし。その塩梅が難しいなって。
山本:そうですね。アニメもエンターテイメントにしなきゃいけないわけだから、その真面目にやって面白くなかったら意味はないですよね。
―最後になりますが、放送を楽しみにしてるファンのみなさんに監督から一言お願いします。
山本:原作ファンのみなさんにはもちろん観て欲しいです。また、このアニメをきっかけに『ノケモノたちの夜』という作品に出会った人には、アニメを見た後に原作漫画を読んで欲しいです。原作から変えている部分、オリジナルな部分もあったりするのでどちらも楽しめると思います。子供でも大人でも楽しめます。なんなら家族で観て欲しいぐらいの作品なので、幅広い人に観ていただければと思います。あとは、獣好きは特に必見かなということですかね(笑)。
―毛並み感とか?
山本:そうですね。犬や猫好きな方にも是非。犬猫というと相当幅が広がりますね(笑)。
―今回で対談企画も最後になります。星野先生、いかがでしたか?
星野:本当に楽しかったです。個人差はあると思いますが、漫画家はどうしても閉じこもって作業をしがちで、同業者ともあまり話す機会がなかなかありません。この企画で、同じクリエイターでもちょっと違う分野の、それも一線で活躍されてる方々とたくさんお話できて、もの凄く幸せでした。また、私の「ザ・憧れてた世界」を見せていただけて、確かに厳しい世界ではあるけれども、それでもかつてこの業界を目指した事には十分な価値があったんだと思えました。まだまだ他にもたくさんエンタメに関わる素敵な景色はいっぱいあると思いますので、今後そんな景色にたくさん出会えるよう自分も邁進していきます。